東京高等裁判所 平成2年(行ケ)190号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(本件審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。
請求の原因二(本件審決の理由の要点)2中、引用意匠の構成が本判決別紙引用意匠図面に示すとおりであることは原告の自ら認めるところである。
二 認定判断の誤り第1点について
1 別紙本願意匠図面に示されたところによれば、本願意匠の基本的構成態様の一部をなす、水平な略方形状片の両側から垂直に垂れ下がつた部分の上辺と下辺は平行で、かつ、右部分の幅はほぼ同一と認められる。また、別紙引用意匠図面に示されたところによれば、引用意匠においても基本的構成態様の一部をなす、水平な略方形状片の両側から垂直に垂れ下がつた部分の上辺と下辺は平行で、かつ、右部分の幅はほぼ同一と認められる。
本件審決が、水平な略方形状片の両側に「略方形状の垂下片」を一体的に形成した頭部を、両意匠に一致する基本的構成態様と認定し、他方、両意匠の差異の一つとして、頭部と脚部の連結態様につき、本願意匠がほぼ直角状で矩形片であるのに対して、引用意匠が斜め状の三角形状片のものである点を認定していること及び本件審決が、基本的構成態様の一致点について、「同垂下片の一方を更に内側に屈曲させたのち」とも認定していることからすれば、本件審決が、両意匠の基本的構成態様の一致点として認定した「略方形状の垂下片」とは、前記の水平な略方形状片の両側から垂直に垂れ下がつた部分を指すものと認められる。そして、両意匠ともに、水平な略方形状片の両側から垂直に垂れ下がつた部分の上辺と下辺は平行で、かつ、右部分の幅はほぼ同一と認められるのであるから、これを「略方形状の垂下片」と認定し、両意匠の基本的構成態様の一致点の一部とした本件審決の認定判断に誤りはない。
2 原告は、引用意匠の垂下片の上辺と下辺は平行であるけれども、略同一幅とは認められず、下辺より上方は漏斗状に形成され、次いで脚片に連結している旨主張するが、右主張は本件審決の認定判断の趣旨を正しく理解せず、本件審決が、「略方形状の垂下片」と認定したのは、本件審決自身が後に引用意匠においては斜め状の三角形状片のものであると認定した「同垂下片の一方を更に内側に屈曲させたのち」の部分までをも含む部分の態様であるとの誤つた理解を前提とする主張であり、採用できない。
3 また、原告は、本願意匠の正面図に表れた脚片の幅は、同一図面における垂下片の幅の二分の一であるのに対し、引用意匠の左側面図に表れた脚片の幅は、垂下片の幅のほぼ五分の一であるという差異があり、本願意匠と引用意匠との全体を観察する場合に、垂下片と脚片は共に基本的構成態様の重大な要件となつており、前記のような脚片の幅の相違を認定しなかつた本件審決は、両意匠の基本的構成態様の相違点を看過したものである旨主張し、別紙本願意匠図面及び別紙引用意匠図面によれば、本願意匠の正面図に表れた脚片の幅が、同一図面における垂下片の幅の二分の一であるのに対し、引用意匠の左側面図に表れた脚片の幅は、垂下片の幅のほぼ五分の一であることは、原告主張のとおりと認められる。
しかし、別紙本願意匠図面及び別紙引用意匠図面によれば、両意匠の基本的構成態様の認定に当たつて、看者に与える印象のさほど強いとは認められない両意匠の脚片の幅と垂下片幅の右程度の差異を捨象して、「長い細幅片として垂下させた脚片」を形成したことを基本的な構成態様の一致点とした本件審決の認定判断は正当であると認められ、原告主張の相違点の看過は認められない。
三 認定判断の誤り第2点について
別紙本願意匠図面によれば、その正面図に表れた本願意匠の水平な略方形状片の幅は垂下片の上片の幅の約一・四四倍あることが認められ、他方、別紙引用意匠図面によれば、その左側面図に表れた水平な略方形状片の幅は垂下片の上片の幅の約一・〇七倍であることが認められるから、両意匠の水平な略方形状片の幅と垂下片の上辺の幅の割合は数値的にはやや差があるけれども、本願意匠においては鋸歯状の山が垂下片の幅を広めていることもあり、意匠として看者の受ける印象はそれほど大きな差とは認められない。
また、別紙本願意匠図面によれば、その正面図及び背面図に表れた垂下片の鋸歯状部は段状をなし、
上縁が水平で、下縁が傾斜状に形成されていることが認められ、他方、別紙引用意匠図面によれば、その左側面図及び右側面図に表れた垂下片の鋸歯状部は、その上下両縁が逆方向に傾斜し、いわゆる稲妻形をしていることが認められるから、両意匠の垂下片の鋸歯状部の形状は微細な差があるけれども、意匠として看者の受ける印象としては意味のある差とは認められない。
むしろ、前記両図面によれば、看者は、両意匠は両側の垂下片につき、水平な略方形状片の幅よりわずかに小さい幅としている点及び下方をやや狭めて両端辺に二山程度の鋸歯状を形成した点において共通性があるとの印象を受けるものと認められる。
したがつて、両意匠の具体的構成について、両側の垂下片につき、水平な略方形状片の幅よりわずかに小さい幅とし、下方をやや狭めて両端辺に二山程度の鋸歯状を形成した点を共通点とした本件審決の認定判断に誤りはない。
四 認定判断の誤り第3点について
前記二、三に判断したこと並びに別紙本願意匠図面及び別紙引用意匠図面によれば、両意匠は、水平な略方形状片の両側に略方形状の垂下片を一体的に形成した頭部の下に、同垂下片の一方を更に内側に屈曲させたのち長い細幅片として垂下させた脚片を一体的に形成した基本的な構成態様が一致しており、その具体的な態様についても、水平な略方形状片につき、中央にその幅の約1/3の径のネジ孔を設け、四隅をわずかな「L」の字状に切欠した点、両側の垂下片につき、水平な略方形状片の幅よりわずかに小さい幅とし、下方をやや狭めて両端辺に二山程度の鋸歯状を形成した点、脚片につき、頭部のネジ孔の真下に位置させ、先端を半円形状に形成した点、の各態様が共通しているものと認められ、かつ、これら共通する態様は、看者の注意を強く惹く意匠の要部をなすものと認められる。
これに対し、請求の原因二(本件審決の理由の要点)3(一)のとおり、本願意匠の脚片の長さは、頭部の高さの約四倍であるのに対し、引用意匠の脚片の長さは頭部の高さとほぼ同じであるという差異があることにつき当事者間に争いはない。
また、別紙本願意匠図面及び別紙引用意匠図面によれば、本願意匠の正面図に表れた脚片の幅は、同一図面における垂下片の幅の二分の一であり、背面図に表れた垂下片を更に底面図にみられるように内側に屈曲させており、この部分の幅は垂下片の幅と同じであるから、連結部においては、垂下片を更に内側に屈曲させた部分からその幅の二分の一の幅の脚片が垂下しているのに対し、引用意匠の左側面図に表れた脚片の幅は、垂下片の幅のほぼ五分の一であり、左側面図、底面図に表れた垂下片を更に内側に屈曲させた部分の幅は、垂下片側が垂下片の幅と同じで脚片側が脚片の幅と同じであるから、連結部においては、垂下片を更に内側に屈曲させた部分の幅が三角形状に狭くなつてその先端と同じ幅の脚片が垂下しているものであることが認められる。
しかし、前記のとおり両意匠の基本的な構成態様が一致しており、その具体的な態様についても共通する点があり、かつ、それら共通する態様は、看者の注意を強く惹く意匠の要部をなすものと認められるのであり、特に脚片についてみると、両意匠ともに脚片が頭部の真下に細幅片として垂下された態様の共通性は強いので、本件審決認定の相違点(一)は、前記のような脚片の幅と垂下片の幅との割合、連結部の態様を考慮してもなお、両意匠の類否判断の要素としては重く見ることはできず、その差異が類否判断に与える影響も軽微なものと認められる。
相違点(一)についての本件審決の判断は正当であり、原告の主張は採用できない。
五 認定判断の誤り第4点について
請求の原因二(本件審決の理由の要点)3(二)のとおり、頭部と脚片の連結態様につき、本願意匠がほぼ直角状で矩形片であるのに対して、引用意匠が斜状の三角形状片のものであるという差異があることは、当事者間に争いがない。
また、別紙本願意匠図面によれば、本願意匠の連結部位は右側面図に表れたように、垂下片を更に内側に屈曲させた部分は垂下片と直角をなすように屈曲して水平となり、その水平な屈曲片の端部に垂直に脚片が連結していること、右水平の屈曲片は、垂下片の下端と幅は同じであるが長さは垂下片よりも短く、その意味で垂下片よりも小さい矩形であることが認められる。
これに対し、別紙引用意匠図面によれば、引用意匠の連結部位は、正面図(本願意匠の右側面図に相当)により明らかなように、垂下片を更に内側に屈曲させた部分は、垂下片に対し、約一一五度の角度に屈曲し、更に反対側へ約一一五度屈曲して脚片と連結していること、右垂下片を更に内側に屈曲させた部分の幅は、垂下片側が垂下片の幅と同じで脚片側が脚片の幅と同じであるから、垂下片側を広く、脚片側を狭くした三角形状であることが認められる。
しかし、前記四のとおり、両意匠の基本的な構成態様が一致しており、その具体的な態様についても共通する点があり、かつ、それら共通する態様は、看者の注意を強く惹く意匠の要部をなすものと認められるのであり、特に頭部と脚片の連結態様についてみると、両意匠の頭部の形状、頭部と脚片の位置関係及び連結部が板状であることは共通しており、その中での限られた比較的目立たない部位での、直角に屈曲するか、一一五度程度に屈曲するかの差異、矩形状か、三角形状かという差異は、看者の印象に訴える力の少ない僅かな差異と認められる。したがつて、本件審決認定の相違点(二)は、前記のような屈曲の角度の差異を考慮してもなお、両意匠の類否判断の要素としては小さく、その差異が類否判断に与える影響も軽微なものと認められる。
本件審決の相違点(二)についての判断は正当であり、原告主張の誤りはない。
原告は、垂下片と脚片との連結について、共に屈曲部を介して連結したとしても、本願意匠ではほぼ方形状に表れ、引用意匠では漏斗状に表れているから美的感覚に大差を生じ、類否判断に影響が少ないということはできない旨、方形状とか漏斗状とか、他の形状を借りて表現する場合に、当該名称が適切である限りは、両者の形状の隔たりが大きく、意匠の類否判断に重大な影響があるとしなければならない旨、両意匠の連結部の形状は、文言上では、三角形状か矩形状かの差異となるけれども、その形状模様は著しく相違しており、文言のみで意匠的判断を左右すべきではない旨主張する。
しかし、右両意匠の差異は、原告主張の点を考慮しても、前記のとおり、基本的構成態様を共通にし、具体的構成態様にも共通する点があり、特に頭部の形状及び頭部と脚片の位置関係が共通する中での限られた、比較的目立たない部位での差異であり、看者の印象に訴える力の少ない僅かな差異と認められ、その差異が類否判断に与える影響も軽微なものと認められる。原告の主張は採用できない。
六 よつて、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本件請求は理由がないからこれを棄却する。
〔編注1〕本件の特許庁における手続の経緯および本件審決の要点は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、意匠に係る物品を「端子」とする別紙本願意匠図面のとおりの構成態様の意匠(以下「本願意匠」という。)につき、昭和五四年五月一一日、意匠登録第四八二〇六六号を本意匠とする類似意匠登録出願(昭和五四年意匠出願第一九一二八号)をしたが、昭和六二年一一月三〇日に拒絶査定を受けたので、昭和六三年二月一日、これに対し審判を請求した。
特許庁は、右請求を同庁同年審判第一五二六号事件として審理した上、平成二年六月七日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年八月二二日、原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点
1 本願出願の日及び本願意匠の意匠に係る物品、意匠の構成態様は一項のとおりである。
2 査定手続における拒絶の理由として引用した意匠は、昭和五四年三月一四日に出願し、昭和五六年九月一七日に拒絶査定がなされ、その後、その査定の確定した昭和五四年意匠登録願第九九八五号にかかるものであつて、その願書及び願書に添附した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「端子」とし、意匠に係る形態が図面によつて現わされたもので、その構成態様は別紙引用意匠図面に示すとおりのもの(以下「引用意匠」という。)である。
3 本願意匠と引用意匠を比較検討する。
両意匠の形態について、水平な略方形状片の両側に略方形状の垂下片を一体的に形成した頭部の下に、同垂下片の一方を更に内側に屈曲させたのち長い細幅片として垂下させた脚片を一体的に形成した基本的な構成態様が一致しており、その具体的な態様についても、水平な略方形状片につき、中央にその幅の約1/3の径のネジ孔を設け、四隅をわずかな「L」の字状に切欠した点、両側の垂下片につき、水平な略方形状片の幅よりわずかに小さい幅とし、下方をやや狭めて両端辺に二山程度の鋸歯状を形成した点、脚片につき、頭部のネジ孔の真下に位置させ、先端を半円形状に形成した点、の各態様が共通しているものである。
他方、両意匠の間には、
(一) 脚片の長さについて、本願意匠が頭部の高さの約四倍のものであるのに対して、引用意匠が頭部の高さとほぼ同じものである点の差異、
(二) 頭部と脚片の連結態様につき、別紙本願意匠図面及び別紙引用意匠図面のとおり、本願意匠がほぼ直角状で矩形片であるのに対して、引用意匠が斜状の三角形状片のものである点の差異、
が主として認められる。
4 しかし、(一)の点については、両者ともに脚片が頭部の真下に細幅片として垂下された態様の共通性は強く、そしてこの種の物品の分野においては脚片を長短様々なものに形成することは一般的なものであつて、特異性が見られず、これらの点を勘案すると、両意匠の類否判断の要素としてはその差異を高く評価できず、その差異が類否判断に与える影響も軽微なものと言わざるを得ない。
(二)の点については、両意匠とも板状片である点では共通しており、また両者の頭部の形状及び頭部と脚片の位置関係は共通しており、それらの共通点における連結部位という限られた部位における直角状か斜状か、及び矩形状か三角形状かのわずかな差異と言うほかなく、両意匠の類否判断に与える影響も軽微なもので、類否判断の要素としては高く評価できない。
してみると、前記の一致するとした基本的な構成態様及び共通するとしたその具体的な態様は、看者の注意を強く惹くところであつて、両意匠の形態に関する主要部を形成するものであり、かつ全体の基調をなす特徴と言わざるを得ないものであるから、類否判断を左右する支配的要素と認めざるを得ない。
したがつて、前記の差異があいまつた効果を考慮したとしても、類否判断を左右する支配的要素において一致し、共通している両意匠は、全体として類似するものと言うほかはない。
5 以上のとおりであるから、本願意匠は、意匠法第九条第一項に規定する最先の意匠登録出願人にかかる意匠に該当しないから、意匠登録を受けることができない。
〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。
別紙本願意匠図面
<省略>
左側面図は右側面図と対象に表れる。
別紙引用意匠図面
<省略>
背面図は正面図と対象により省略する。
<省略>